大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和54年(う)227号 判決 1979年5月21日

主文

本件控訴を棄却する。

当審における未決勾留日数中一〇〇日を原判決の刑に算入する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人杉浦栄一が提出した控訴趣意書に、これに対する答弁は、東京高等検察庁検察官検事田代則春が提出した答弁書にそれぞれ記載されたとおりであるから、これらを引用し、これに対して、当裁判所は、次のとおり判断する。

控訴趣意第一点(事実誤認)について<省略>

控訴趣意第二点(法令適用の誤り)

所論は、要するに、住居侵入罪の「侵入」とはあくまで内部に入ることであつて、原判決第三の各事実は被告人はたんに屋根上を逃げたにすぎないのであるから、この行為を住居侵入罪に問擬することは法令の適用の誤りである、というにある。そこで原審記録を精査すると、被告人は昭和五三年七月一九日午前四時三〇分ころ警察官の職務尋問を免れるため、若竹ビル南側の高さ約1.45メートルのブロツク塀にあがり、そこから右ビルと大屋弘一方居宅の境にある高さ約1.60メートル塀に乗り移り、さらに同人方庭にある梅の木に登り、そこから同人方住居の屋根の上にあがり、瓦葺の上をがたがたと音をたてながら走りまわり、ついで同日午前四時四〇分右屋根から屋根伝いに隣りの若竹ビルの屋根の上にあがり、さらに同日午前四時五〇分ころ屋根が続いている株式会社萬善商店の事務所兼社宅の屋根の上にあがり、社宅で寝ていた小越セツにとがめられ、右屋根から西側の車庫のプラスチツク製の屋根に飛び降り、その際右屋根を踏み抜き、その屋根の上を歩いて道路に降りたことが認められる。住居侵入罪の「侵入」の対象となる住居又は人の看守する建造物の範囲は、住居等の平穏を保護法益とする法の趣旨に則して考うべきところ、住居及び建造物の屋根は構造上それらの構築物の重要な一部であつて、その目的からいつて通常屋内にて起居している者の頭上に位置するものであるから、屋内で起居する者に無断でそれらの屋根の上にあがることは、住居等の平穏を害する「侵入」に当るといわなければならない。すなわち住居等の屋根の上は、住居侵入罪の住居又は建造物の一部であると解する。したがつて原判決には法令適用の誤りはない。論旨は理由がない。<以下、省略>

(小松正富 石丸俊彦 磯邊衛)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例